2013年1月17日木曜日

アンズの種割り人形

ブハラ名物の杏の種をポリポリとかじりながら
ヒライは考えた。

(実にめんどくさい。これは専用の器具が必要だ!)

ブハラのバザールでは
炒って塩をふった杏の種が売られていて……

食べるときは、殻の割れめに、
別の殻を差し込んでこじ開けて
中身を食べるのだが……

割れめがほそすぎて殻を差し込めない種も多く
ヒライは歯で噛んで開けていた。
そんな割り方をしていては、歯が欠けるのも時間の問題である。

そもそも……と、ヒライはポリポリ考える。

日本人は細かい用途に対応したアイデア商品が好きである。
たとえば、昨冬からヒライが愛用している手袋は
親指、人差し指、中指の先だけ電気が通るようになっていて
手袋をしたままスマホがいじれるというものだ。
こういう「かゆいところに手が届く」商品は
ウズベキスタンであまり見かけない。

この杏の種だって、杏の種割り人形を開発し
セットで売れば、新しいブハラ土産となるのではないだろうか。

(杏の種割り人形は2つの部分を備えていなければならない)

ヒライはさらにポリポリ考える。

(すなわち、割れ目のない種にヒビを入れるためのペンチ部分と
 細い割れ目をこじ開けるための、ギターのピック的な部分である)

(そうギターのピック的な……)

そこでヒライは思いつく。
なぜか家にあるドライバーセット。
何かを修理しようとしたら、先に壊れてしまいそうな
アイツが使えるのではないか?




パカッ

いともかんたんに、そしてきれいに割れる杏の種。

(おおー、これは便利!)

ヒライはうれしくなった。

そして虚しくなった。
杏の種割り人形のアイデアがムダになったからである。

……ポリポリ。

こうして今日もタシケントの夜は更けていく。